1月1日
朝5時半起床。
休日なのに、いつも通りに目が覚める。
いつの間にか習慣がついたことに、ちょっとびっくり。
そういえば、最初に朋子さんから出された課題が、「早起きしよう。」だった。
あれから9ヶ月、自分はきちんと成長しているのだろうか。
とりあえず、じいちゃんには感謝しなくちゃ。
おかげで僕の世界は確実に広がった。
それがうれしい。
じいちゃんの遺言がなければ出会うことのなかった朋子さん、やよいさん、足立さん。
あの人達の存在がない世界なんて、今は考えられない。
今年もよろしくお願いします。
真っ白な手帳に初めてペンを入れる。
1ページ目の裏側、ここに一年の目標を書く。
和子に言われた通りに書くことにする。
「手帳の最初のページに、将来の自分の姿を書く。
それから、今年の目標や計画を書いてみる。」
うーん、緊張する。
まずは将来の自分の姿。
「建築士として、世界のいろいろなビルや美術館、ホールの設計をしている。」
ちょっといい感じ。
そのためには、1級建築士の資格を取らなくちゃ。
世界に羽ばたく建築士になるには、語学も必要だな。
和子、英語を使った仕事って言ってた。
僕もがんばろう。
今年の目標
○英検3級を取る。中3年の春に4級を取ったけど、それ以上はときは絶対無理だと思って受検しなかった。きっとあの時受検してもだめだっただろう。今回は、きちんと取り組んでみる。
○個性的な建物を見学する。どこかに出かけるときは、優れた建物を見てくることにしよう。将来自分が設計をするときに、きっと役立つだろう。
○4月から続けてきた習慣を、これからも続けていく。きちんと早起きしてデッサンも続ける。
○地区駅伝大会に選手として出場する。
○学校の勉強をしっかりやる。大学受験の時に必要な教科を確認して、それを中心に力をつける。
ふう、これくらい書けば十分かな。
朋子さんにメールしてみよう。
「朋子さん、明けましておめでとうございます。
この9カ月、いろいろな事を教わり、そして考え、ちょっとだけ成長した気分です。
新しい年も頑張ります。今年もよろしくお願いします。
手帳に将来の姿と今年の目標を書きました。
今度見て下さい。」
すぐにスマホが鳴った。朋子さんからだ。メールじゃなく電話なんてめずらしい。
「武志くん、明けましておめでとう!」
「朋子さん、すごいレスポンスですね。おめでとうございます。今年もよろしくお願いします。」
「あまり電話は好きじゃないんだけど、武志くんにどうしても聞いてほしい話があるの。」
「悩み相談・・・とか・・ですか?」
「面白いわね。ほんとに相談しちゃうよ。」
「すみません。相談されても、たぶん何もアドバイスできません。」
「まあいいわ。さっそく聞いてほしい話をするね。
これは年末に読んだ本の中に書いてあったことなの。あんまりすごいことなんで、元旦に武志くんに話そうと思ってね。
その本に書いてあったのはね、ある人が『この封筒の中には成功を約束するアドバイスが書いてある。この封筒を開けて中の言葉を読んで、それが気に入ったら2万5000ドルを支払ってくれ。』という申し出を受けたんだって。それで中を読んだら納得して、2万5000ドルほんとに払ったという話。
2万5000ドルだよ。300万円近くだよ。すごいと思わない?」
「で、その封筒の中には何が書いてあったのですか?」
「それがね、たった2行なの。
①、朝、手帳にその日にやるべきことを書く。
②、それを、その日のうちに実行する。
これだけ。ね、ね、すごいでしょ?」
「この2行に300万円も払ったんですか?」
「そう。武志くんはこの言葉の価値に気付いた?」
「いい言葉だとは思いますけど、僕はきっと300万は払わないですよ。」
「きっと私もそう。だけど、この言葉の通りに実行できたら、絶対に成功するよね。」
「たしかにそうですね。」
「じゃあ、これで話おしまーい! ご家族の皆様によろしく。おじいちゃんは、そこにはいないよね。」
「はい、あとで来ますから伝えておきます。」
「じゃあね。手帳もしっかりね。」
「ありがとうございます。学校始まったらまた行きます。」
朝、手帳にやることを書く。
それを実行する。
簡単な言葉だけど、これを続けるのって、けっこう大変そう。
365日、きちんと実行できたら、かなりすごい人間になってるかも。
1月1日、今日やるべきことは・・・
「初詣」「餅を食べる」「ニューイヤー駅伝を見る」
これじゃ、きっとだめだ。
「デッサンをする」
「英語の勉強をする」
うわー、自信ないな。
でも、1年のスタートだ。書いちゃえ!!
「デッサンをする」「英語の勉強をする。」
◇ ◇ ◇
結局、その日はニューイヤー駅伝を見ながら描いたテレビのリモコンと、たった1ページの問題集で終わった。やることはやったぞという言い訳が、ちょっとむなしい。