未来をより良く生きるために

36 11月 違う角度から考える⑤

11月23日 

「いらっしゃいませ。足立さん、お久しぶりです。」

「こんにちは、武志くん。今日、アルバイトなんだってね。」

「アルバイトというよりも、修行の一環です。違う角度から考えるには、違う角度に立ってみるのが一番だねって話になって、それで、一日だけ店を手伝わせてもらうことになったんです。」

「それで、仕事は順調?」

「それは、朋子さんに聞いてください。」

「よくできてるよ。もっとも、日曜日はランチもやってないから、お客さん少ないけどね。」

「朋子。休日の戦略を変えてみたら?」

「日曜日はこれくらいでいいの。忙しすぎるカフェなんて、落ち着かなくてイヤ。」

「もったいないなあ。俺なら休日限定でラーメン屋かイタリアンの店にしちゃうけど。」

「裕介が日曜だけオーナーになるなら、貸してあげてもいいわよ。」

「おもしろそう。本気で考えとく。」

「友達だけど、ビジネスはシビアに対応するからね。いつものでいい?」

「はい、お願いしまーす。」

「武志くん、コロンビア淹れて。ポットで。裕介、武志くんのコーヒー試してみて。見習いだから100円引き。」

「それいいアイディア。『見習いコーヒー、オール100円引き』ってメニューに入れてみたら?

で、武志くん、カフェの店員になって、何か気づいたことあった?」

「平日よりお客さん少ないけど、けっこうやることってあるんですね。

開店前の仕事から手伝ってるんですけど、

実際にお客さんに飲み物出す仕事より、準備の仕事の方が多いんだな、

というのが率直な感想です。」

「考えてみればわかることだけどね、

でも、『知ってる』ことと『理解する』ことは違うし、

『理解する』ことと『実感する』ことも全く違う。

武志くんは、半年経って初めて、このカフェを違う角度から眺めているんだね。

いい経験になるよ。

ところで朋子、バイト料はいくら?」

「朝8時から、夜の7時までで4000円。」

「時給400円くらいか、それ、労働基準法違反じゃない?」

「いいんです。僕がお願いしたんだし、お金もらうつもりもなかったんですから。」

「そういうこと。

日曜日はバイトを雇うほど忙しくないし、

はじめはバイト料なしで働いてもらおうと思ったんだけどね。

でも、働いてお金もらう経験もさせてあげようという親心。

2食まかない付きだし、妥当でしょ。」

「なんか割り切れない思いもあるけど、そういうことなら頑張って。」

「お待たせしました。コロンビアです。」

「ありがとう。

ねえ朋子、普通にうまいよ。

『実はかなりすご腕の見習いコーヒー、オール100円増し。』で売り出すか。

武志くん、コロンビアのうんちく、何か言ってみて。」

「・・・とても・・・風味豊かで・・・いけてる豆でございます。」

「ぶはっ!なんにも伝わらねー!」

「裕介、茶化しちゃだめでしょ。ほんとに100円増しにするよ。」

「ごめんごめん。朋子のことだから、そこまで指導してるかもって、ちょっと期待しちゃった。」

「豆の話、朋子さんから時々聞いてて、

その時は『へえー、そうなんだ。』って思って飲むんですけど、すぐ忘れちゃいます。」

「朋子はね、すごい勉強家なんだよ。

若いオーナー集めて勉強会したり、有名店やメーカーにいって話を聞いてきたり、

かなり頑張ってる。

そのへんの話も今度聞いてみるといいよ。」

「はい、そうします。」

「いらっしゃいませ。ほら、武志くん、仕事仕事。」

「じゃあ僕は、静かに武志くんの働きぶりを拝見するとしましょう。武志くんファイト!」

 

◇◇◇

 

「お疲れ様でした。一日やってみて、どうでしたか?」

「今、どっと疲れが出たって感じです。部活とは違う疲労感です。」

「慣れないから気疲れもあったでしょ。

お客様商売だから、知らない人と会話するのが普通だしね。」

「緊張しちゃって、自分でも動きがロボットみたいだって感じました。」

「そう?私からはそうは見えなかったよ。」

「店を開ける前と、閉店した後も、いろんな仕事があるんですね。

全部ひとりでやってる朋子さん、尊敬します。」

「ありがと。

今日は武志くんの友達が来てくれて、新規お客さんの開拓になったから、

私としても実りある一日だったかも。

午後から『高校生スペシャル』よく出たねえ。」

「まさか陸上部がツアー組んで来るとは思いませんでした。

いつも一緒のメンバー相手でも、状況が変わると緊張するものですね。」

「それも良い経験。それで、違う角度から考える勉強にはなったかな。」

「はい、次に喫茶店やレストランに入るとき、確実に見方が変わってると思います。」

「違う立場に自分を置いてみると、違う視点でものごとを考えることは容易にできるよね。

いろいろな体験をすることで、思考の視野を広げていきたいな。

でも、最終的には『経験したことではないけれど、相手のことを想像して考える』力を身に付けること。

そうでないと、『しってること以外は考えられない。」という悲しい人間で終わっちゃうから。」

「前に裕介さんと朋子さんから出された『その人の物語を考える。』ということ、

今日できるかなと思ったけど、仕事で精一杯で、考えるゆとりもなかったです。」

「そうよね、お客さんが来た時、店主としては、

先に『何を注文してくれるかな。どれくらい滞在するかな。』と考えちゃうけど、

『このお客さんは、何を求めて店に来てくれたんだろう。』と考えて、

その思いに応えるサービスを提供する。

物語を作る必要はないけど、お客さんの気持ちを想像する。

この気持ちを忘れたら商売にはならないわね。

はい、今日のバイト代。」

「ありがとうございます。生まれて初めて働いてもらったお金です。」

「何に使うの?」

「それは全く考えてないです。」

「初めての給料で、ご両親にプレゼントする話なんか、よく聞くよね。」

「朋子さん、さりげなくプレッシャーかけてきますね。」

「家族で食事に行くのもいいかもね。」

「なんだか、自分のために使えなくなっちゃいそう。」

「はっはっは、これも『違う視点』というものね。」

 

今日がいつもと同じ24時間だなんて、信じられないくらいの

ほんとうに長い一日が終わった。

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小説「高1の春に」

自己紹介

縁あってたくさんの中学生と接してきましたが、まだ人生の準備運動の段階であきらめている子のなんと多いこと!そうじゃないよ。人生は中学卒業からが本当のスタートだよ。いくらでも自分自身と自分の人生を変えられるよ!
そんな思いをもってページを立ち上げた中年のおじさんです。

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