12月14日
「おはよう和子。」
「武志おはよう。最近、朋子さんの所に行ってる?」
「うん、ちょっと前に行ってきた。今はお金のことを話してる。」
「へー、ずいぶん現実的なテーマね。」
「そうなんだ。高校、大学で勉強するのに、どれくらいかかるんだろうって。」
「言われてみれば、考えたことなかったな。で、どれくらいかかる計算?」
「高校卒業まで、だいたい200万円くらいかな。大学は、どこに行くかにもよるけど、東京に行ったら1000万だって。」
「いっせんまん?!そんなにかかるんだ。ちょっとショック。」
「だろ?我が家でそんなお金出せるのかなって、心配になってきたよ。和子は当然大学に行くよね。」
「今のところは東京の外語大かなあ。でも、経済とか法律の勉強をして、その上で語学を磨くことも考えてるの。武志は建築系だったよね。」
「それも、いまいちわかんなくて。ほんとにそれでいいのか、絶賛悩み中。」
「いっせんまんかあ。」
「和子、珍しいね。そんなことくらい知ってて勉強してるのかと思ってた。」
「残念ながらお金のことには無頓着。無駄遣いはしてないよ。でも、大学の費用なんて、受験に合格すれば自然に出してもらえると思ってた。」
「それ、僕も同じ。」
「でも、お金かかるからって、自分の夢をあきらめたくないなあ・・まじめに考えてみよう。」
そう言うと、和子は静かに「勉強部屋」に乗り込んでいった。
なんか、悪いことしちゃったかな。何にも動じない和子が、お金のことでうろたえるなんて、思ってもみなかった。でも、和子のことだから、「まじめに考える。」と言ったら、ほんとに真面目に考えるのだろう。このまま悩んでる和子じゃない。次、何を言ってくるのか楽しみだ。
それはそうと、自分はどうする。父さんは「いくらでも出してやるー。」なんて軽く言ってたけど、ほんとにそれでいいのかな。もし、僕の子供が「父さん、東京の大学行きたい。1000万かかるけど、お願い。」と言ってきたら、「いいよん。」なんて言えるんだろうか。
子供は少ないほうがいいか・・なんちゃって。
12月15日
「おはよう武志。昨日のお金の話だけど、両親ときちんと話し合って、結論出してきた。」
「はやっ! やっぱ和子は違うわ。で、何話したの?」
「まず、両親は『和子が本当に勉強したいのなら、お金は出すから心配するな。』っていってくれた。もう感謝しかないな。でも、それじゃあ申し訳ないから、こう提案したの。『私は大学で頑張って勉強したいから、バイトしながら大学生活を送るのは自信ない。だから、お金は出してほしい。だけど、出してもらうのは地元の大学にいったと仮定した分。それ以上かかったお金は、お父さんが70歳になった時にはきちんと返す。』って。」
「それでお父さんは?」
「大丈夫、全部出すって言ってくれたんだけど、それじゃあ私の生活がだらだらしちゃうからって言ったら、それじゃあそうしようとなったの。」
「なんか、自分に厳しいねえ。 いくつか意見言ってもいい?」
「いいよ。」
「まず、和子はお金を全部だしてもらっても、絶対にだらだらしない。それから、和子に限って、バイトと両立しないなんてことはない。てか、有り得ない。」
「褒めたの?」
「ベタ褒め。」
「ありがと。一応貴重なアドバイスとして聞いとくね。」
「ところで、和子のイメージとしては、いくらくらい返す感じ?」
「半分、てとこかな?」
「500万!!」
「しっかり稼いでやるわよ。見てなさい。もしかしたら大学院まで行くと、もっとかもしれないし。」
「ところで和子。お年玉の一割を寄付しなさいっていう教えがあるんだけど、どう思う?」
「それ、私やってるよ。」
「えーーーっ!!ほんとに?いつから?」
「中2から。」
「そんなこと何も言ってなかったじゃない。」
「なんで私の小遣いの使い道を武志に報告しなくちゃなんないのよ。」
「そりゃあそうだけど・・・でも、なんで?」
「世界で成功した人の多くが、そんな寄付をしてるっていう話でしょ?成功したければ、偉い人がやってることを真似するのが早道じゃない。」
「何に寄付してるの?」
「盲導犬協会。犬、大好きだから。」
「やっぱり、和子すげーや。僕、朋子さんにこの話聞いたとき、『絶対にしません。』て言っちゃった。なんか、差をつけられた感がある。」
「なんで私がそんなことできたと思う?実は私がお金に無頓着だから。小遣いもらっても半分くらい残っちゃうから、そんなこともできたんだと思う。小遣い足りなかったら、たぶんしてない。」
いや、和子。あんたはお金が足りなくてもやっちゃうよ。
勉強部屋に乗り込む和子は、颯爽としていた。昨日の和子とは別人だ。
問題があると、すぐに行動して解決しちゃう。
いいと思ったことは、躊躇なくやってしまう。
だから、勉強でもスポーツでも生徒会でも、なんでもやってきたんだろうな。
ほんとにすごい人になりそうな気がする。
あいつのサインをもらっておくべきだと、心から思った。