未来をより良く生きるために

7 5月 勉強は必要か②

5月4日

「武志が一人で来るなんて珍しいと思ったら、朋ちゃんの差し金か。でも、朋ちゃんも覚えてるんなら自分で話してくれればいいのに。」

「これはじいちゃんに直接聞けって。」

「ふーん、そんなに感動的な話だったかな・・

まあいいか。それじゃあ喋ってみる。うぉっほん。

まず、こんなことを考えてみる。「もし、この瞬間、大人が全員いなくなってしまったら。」って。大人の定義は、とりあえず選挙権のある18歳以上としておくか。なんでいなくなったかは、まず置いといて、とにかく世界に子供だけが残されたっという設定ね。

まず、何とかしなくちゃならんのが食料と水だ。水は当分の間水道が使えるだろう。でも、浄水場の職員がメンテナンスしないと、おそらく数か月で使えなくなるだろう。ペットボトルの水はスーパーやコンビニにある。お金を払う必要がないから、すぐに取ってこれる。逆に言うと、すぐに品切れになるともいえる。きれいな水は、一年持たないかもしれない。食料は店から取ってくる。でも、これもすぐに品切れになるだろう。輸送システムもストップしてるだろうからね。

そんな中でトラックを運転して物資を運んじゃう子供も出てくるだろう。だけど、ガソリンがなくなったらそれもおしまい。発電所もスタッフ不在の中でいったい何か月持つのか想像もつかないな。盲腸炎になっても手術する医者がいない。テレビも映らないしラジオも聞こえない。おそらく数年で今の文化的な生活はほとんどできなくなる。

そんなことを考えて、部屋を見渡してみる。自分で作れるものってどれくらいあるだろう。テレビ、ガラス、電灯、プラスチック、布、紙、ビニール、石油、どれも作れそうにない。何とか作れそうなのは木のテーブルやイスくらいかな。それだって、のこぎりやくぎがなければ苦しいだろう。

今、我々が生きている現代の技術や文化は、それを知っている人がいなくなったら、すぐに崩壊してしまう。そうならないのは、若い人たちが技術を受け継いでいくから。そのつながりがあるから、今日も、明日も、たぶん10年後も今の生活を維持できるわけ。

どお?その方がいいでしょ?

これから大人になる若い世代の人々は、今の大人たちから、世の中にある知識や技術を全部もらわなくちゃいけない。それを一人の人間がすべて請け負うわけにはいかないから、役割分担は必要になる。「おれは米を作るから、お前は電気をつくってくれ。お前は車ね。あと、魚取る人もほしいな。誰がする?」と、何百万の仕事をみんなで分担することになる。

そこでだ、武志は何を受け継ぐかな?」

「いきなり言われても、まだ何も決めてないし。」

「武志の将来は武志が決める。それでいい。でも、どうやって決める?」

「・・・そのための勉強、ってこと?」

「そうゆうこと。これは、武志自身の問題だけど、武志に何を分担してもらったらいいかという若い世代全体の問題でもある。飛行機を作る役割をもらったのが武志だけだったら、武志がしっかりしないと世の中から飛行機がなくなるってことになるわけだ。」

「ちょっと大げさな気がするけど・・・」

「確かにね。ここで勉強の話に戻るよ。もし、誰も勉強しなかったら、どうやって役割分担する?分担をくじで決めて、決まったものを頑張るって方法もあるかもしれないけど、どうせなら自分の好きなこと、得意なことを受け持った方がいいよね。そのために、とりあえず全体像をつかむためにひと通り勉強してから決めてくれという願いを法律にしたのが、義務教育というやつだね。

でも武志は義務教育終わったから、勉強しなくてもいいよん。」

これ、絶対言うと思った。

「でも、絶対その道に進まないってわかってる教科は、勉強しなくてもいいんじゃない?音楽とか、美術とか、たぶん英語もいらないと思う。」

「じゃあ、しなくていいよん。と言っちゃえば簡単だけど、それじゃあ人生楽しくならないだろうなあ。最初のテーマ忘れた? ”楽しい人生”だよ。」

「必要のない勉強をするのが楽しい人生?」

「待ってました!ここから先は朋ちゃんにバトンタッチね。テーマは”必要のないことと楽しい人生の関係”。」

「ところでじいちゃん、なんで朋子さんに頼んだの?」

「その答えを武志が自分で見つけることを祈る!」

「まあいいや、今日はありがとう。」

「いいねえ、ありがとうって言える人は伸びるよお。せっかくだから帰り道にいろんなもの指さして、”これは作れる。これは無理。”ってつぶやいごらん。感動と感謝の嵐が吹き荒れるであろう。では、さらば!」

◇ ◇ ◇

自転車のフレーム、これ鉄かな。タイヤ、ヘッドライトの電球、ズック、ひもも作れないや。信号機、自動販売機、缶ジュース、自動車、電柱、家、アパート、スマホ、スマホの中っていったいどうなってんの。コンクリートの道路、メガネ、ガラス、牛丼、これは作れるか。いや、牛を殺せない。醤油、みそ、どんぶり、焼き物はできるかも。

じいちゃんの言う通りだ。自分でできるものなんて、ほとんどないんだ。これ、全部誰かが考えて作り出したんだよね。くやしいけど、ほんとに感動しちゃう。

◇ ◇ ◇

「ただいま。」

「おかえり武志。おじいちゃんは元気だった?」

「いつも通り。」

「今日は天ぷらするね。」

「それは作れそう。」

「手伝ってくれるってこと?」

「いや、あの、まあ・・・手伝うよ。」

「それはありがとう。でも天ぷらだってけっこう技術があるんだからね。」

「がんばって知識と技術を習得します。」

 

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小説「高1の春に」

自己紹介

縁あってたくさんの中学生と接してきましたが、まだ人生の準備運動の段階であきらめている子のなんと多いこと!そうじゃないよ。人生は中学卒業からが本当のスタートだよ。いくらでも自分自身と自分の人生を変えられるよ!
そんな思いをもってページを立ち上げた中年のおじさんです。

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