未来をより良く生きるために

14 7月 行動①

7月8日

「はじめまして、笹木和子っていいます。今日は武志の先生に会うために来ました。よろしくお願いします!」

「和子さんね、こちらこそどうぞよろしく。江口朋子です。武志くんからちょっとだけ話を聞いてたのよ。中学の同級生で、絶対に敵わないすごい人がいるって。」

「そんなことないです。それに、高校生になってからの武志、今までと違ってぐんぐん伸びてるし、あっという間に置いていかれそうで、実は少しあせってました。で、武志の先生と話してみたいなあって。」

「私こそ、先生なんて立場じゃないですよ。私なりに考えてることを話したり、武志くんの話を聞いたりしてるだけ。」

「でも、武志くんがうらやましいです。こんな素敵な場所を確保できてるなんて。私なんか家と校舎とグランドをぐるぐる回って、それで一日が終わるって感じです。ところで、シエロってどういう意味ですか?」

 へえー、店の名前なんて今まで意識したことなかった。そういえばシエロって何だろう。こんな簡単な質問に気づかなかった自分が悲しい。それと、やっぱり和子はすごい。

「シエロっていう店の名前はね、私の母がつけたものなの。中学の時だったかな。私も母に聞いたのよ。『どうしてシエロって名前にしたの?そもそもシエロって何?』ってね。そしたら、すごく他愛のない答えが返ってきた。

『江口という感じをよーく見てごらん。ほら、カタカナでシエロって見えるでしょ?』だって。はじめはすごくがっかりした。でも、母はこうも言ったの。『シエロって決めてから、シエロっていう言葉を探してみたの。そしたらね、スペイン語で『空』っていう意味があることがわかった。抜けるような青い空を思い浮かべて、すごくうれしくなっちゃった。その時は江口っていう名字でありがとうって思ったのよ。』

 その話を聞いてから、シエロっていう名前、私も気に入っちゃったというわけ。母から店を引き継いだ時も、名前を変える気はなかったわ。」

「スペインの抜けるような青い空ですか。すごくいいですね。」

「でしょ?まだスペイン行ったことないけどね。」

 

話が弾んでるなあ。なんか、口をはさむ余地なしって感じ。

それから30分、二人の話は朋子さんの絵の話から和子の部活まで、幾度となく話題を変えながら続いた。

 

「ところで朋子さん、武志にどんなこと話したんですか?」

「えーと、最初は『早起きしよう』ってこと。その次は『勉強の意味』、先月は「言ってはならない言葉」についてだったね。3か月で3つの話題だから、ひと月にひとつのペースね。」

「わあ、それって素敵ですね。1年で12のテーマで考えたり話したりするんですね。私にも教えて下さいね。それで、7月のテーマは何ですか?」

「うーん、話したいことはいくつかあるけど、次に何を話すかはまだ考えてない。武志くんと話しながら、なんとなく決まっていくっていう感じだから。武志くん、何か気になってること、ある?」

「実は、朋子さんに聞いてみたいなって思ったこと、ひとつあるんです。」

「へー、自分でテーマ作ってたんだ。やっぱり昔の武志と違う。」

「和子、茶化すなよ。」

「いいからいいから、話してよ。」

「それじゃあ話すから聞いてね。このあいだ、足立さんからメールもらったでしょ?朋子さんが転送してくれたやつ。あの中に、『実行しないと成長しない。』って書いてあったんです。『無理って言わない。』から一歩進んで『これを実行するから、できるようになる。』って言えるといいなあって。でも、あれをやりたいとか、こうなりたいとか希望を持っても、何をどうしていいかわからなくて。今教えて欲しいっていうか身につけたいのは、きちんと計画して、それを実行する力ですね。」

「でもその前に、夢とか希望とか目標がないと、動きようがないんじゃない?」

「うん、その通りなんだよね。だから最近、自分は何をしたいんだろうって考えてた。」

「それで、何か見つかった?」

「漠然としてるんだけどね、将来は何かものを作る仕事がしたいなあって。」

「ふーん、ちょっと意外な気もするな。武志はお客さん相手の仕事似合いそうだから。」

「いや、まだ決めたわけじゃないんだ。小さい頃、いろいろ作るの好きだったなあって程度。」

「ところで、和子さんはどんな目標を持ってるの?」

「私は、英語を使って外国の人と話しながら仕事をするのが目標なんです。」

「今、何か努力してることってある?」

「そうですね。家にいる時はすーっと英語が聞こえるようにラジオだったりテレビでCNN流したり、参考書についてきたCDをかけたりしてます。それから、がんばって英語の本読んでます。と言っても、一日1ページも進まなくて。もっと時間があればなあって思っちゃいます。だから、鬼みたいな宿題は、なるべくすき間時間に終わらせようとしてますね。それから、高校のALT、ナンシーって言うんですけど、彼女をつかまえて話すようにしてるくらいかな。」

「和子の話を聞くと、くらくらしてくるよ。よくそれだけいろいろやってるね。」

「でも、ラジオやCDは、他の勉強しながらでも聞こえるし、洋書を読むことくらいしかやってないとも言えるな。もっと頑張らなくちゃ。」

「武志くん、私と話すより和子さんの話を聞く方が、勉強になりそうね。」

「でも、和子は人と違うんで、すごいと思っても真似はできません。」

「ふふっ、人と違うって言われるの、私嫌いじゃないよ。でも、武志もけっこう早起きとか頑張ってると思う。」

「いや、早起きしても、やることないんだってば。」

「ふう、あんたの時間、私に売って欲しいよ。朋子さんはどう思います。何かいい方法ってありますか?」

「ごめんなさいね。これをすれば大丈夫なんて方法、私にはわからない。というより、そんないい方法なんてないんじゃないかな。いろいろ試してみて、自分にしっくりフィットする方法を探すしかないと思う。でもね、ひとつ注意したいことがあるの。それは、試すと決めたら、いつまで試すのか期限を決めて守ること。そうしないと、三日坊主の繰り返しになっちゃうよ。これはよくあるパターンなんだけど、

〇この方法で努力しよう

〇思ったほどうまくいかない

〇方法を変えよう

〇やっぱりこの方法もだめ

〇今度のやり方はいけそうだ

〇前の方が良かった

こんなふうに時間を浪費してる人の多いこと。それよりも

 〇この方法で一か月は毎日続けてみよう。それから良いかどうか、続けるかどうか判断しよう。

と考えて実行した方が絶対に成長します!だから、何でもいいから期限を決めて、そこまでは必死になって続けてちょうだい。

 

◇ ◇ ◇

 

「武志、今日はありがとう。すごく楽しかった。」

「いや、僕も、やっぱり和子はすごいなあって感心しちゃった。」

「意味わかんないなー。でも、機会があればまた朋子さんと話したいな。武志みたいにちょくちょく来るってのは無理だけど。」

「うん、英語頑張ってね。」

「ありがと。そうだ、もうひとつ英語でやることあったんだ。今度トーイック受けてくる。」

「トーイック?」

「英検みたいなものよ。大学生とか社会人が受けるテストなんだけど、一度経験したくて。受験料すごく高いんだけど、それは親が出してくれるって言うから。秋になるけどね。」

「やっぱ和子すごいわ。」

「武志、やることが見えてきたら教えてね。」

 

和子の後ろ姿が、いつもより大きく、大人に感じる。運動も勉強もあれだけできるのに、まだまだ頑張ろうとする根性というか気迫がすごい。いや、あの気持ちがあるから、いろんなことができるようになったんだろうな。和子の精神力がほしいと改めて思った。

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小説「高1の春に」

自己紹介

縁あってたくさんの中学生と接してきましたが、まだ人生の準備運動の段階であきらめている子のなんと多いこと!そうじゃないよ。人生は中学卒業からが本当のスタートだよ。いくらでも自分自身と自分の人生を変えられるよ!
そんな思いをもってページを立ち上げた中年のおじさんです。

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