未来をより良く生きるために

3 4月 早起きに挑戦する②

4月18日 

 「おはよう武志。」

「おはよう。和子すごいな。朝から勉強かよ。さすが進学校は違うよな。」

「ねえ聞いてよ。毎日数学の宿題が10ページだよ10ページ! 計算ドリルじゃないよ。普通の問題集で10ページ!しかもほとんど予習!習ってもないのに10ページ!こんなの絶対無理!」

「じゃあ、やらないで行ってんの?」

「無理と言いながら何とかしちゃうのが腹立つのよね。クラスのみんなも『最初からなにこれ。』ってぶーぶー言ってるけど、なんだかんだ言ってやってくるのよね。『ほれ、やればできるだろう。』っていう先生のドヤ顔もしゃくにさわる。やっと高校入試終わったと思ったら、大学入試だって。スタートが肝心なんだって。いっそみんなでボイコットすればいいのに。」

「で、今やってるわけね。」

「もう時間がいくらあっても足りないって感じかなあ。だからひとつ前の列車に乗っていくの。しっかり座って1ページくらいやっちゃって、学校に着いたら更に3ページ。」

「前の日にやらないで、不安じゃない?」

「でも、どう考えても夜に10ページは無理。だから今の形で頑張るしかないかな。・・・ところで武志はどうしてこんなに早いわけ?宿題多いの?」

「宿題なんてほとんどないよ。理由を話すのも難しいんだけど、早起きのトレーニングってとこかな。」

「へええええええええっ! 武志じゃないみたい。理由は聞かないけど、それって楽しい?」

「楽しくなるためにやってる・・・てことになってる。」

「なんかよくわかんないけど、頑張ってね。じゃあ、私の勉強部屋来たから行くね。」

そう言い残すと、和子は列車に飛び乗った。

和子は中学の同級生。頭もよく生徒会の副会長をしていたリーダーの一人。おまけにソフトボール部のエース。市内の進学校にも(たぶん)楽勝で合格した。卒業したら有名大学に進学すると思われる。通学の列車は反対方向。そんな和子が、理由はどうあれ自分と同じ早起きをして、ひとつ前の列車に乗っている。自分は(たぶん)楽しい人生のため。和子は(たぶん)大学進学のため。目的は(たぶん)違うけど、「お互いに頑張ろう。」と勝手に仲間意識を持ってしまう。

遅れて南へ行く列車が到着した。

 

高校生活はひとまず順調と言える。

6時起床、6時10分朝食、6時半に家を出て、6時53分の列車に乗り、7時20分に松山駅に着き、7時35分には学校に到着。まだ30分の余裕がある。朋子さんは「一日1時間、1年で365時間の自分の時間をどう使うかは、これからゆっくり考えていけばいいのよ。」と言う。でも、365時間が364、363と減っていくことを考えると、ちょっと焦ってしまう。高校の3年間でおよそ1000時間。毎日の中に埋もれてたのを自分で掘り出した自分の時間。うおおおおお、何かしなくちゃ、と猛烈に感じる。でも、感じるだけで実際何をやればいいかわからない。

1000時間あったら何をする?2つ向こうのボックスに座ってる会社員は何をする?窓の外をぶっ飛んでいったあのじいちゃんなら何をする?うちの父ちゃんは、母ちゃんは何をする?アメリカの大統領なら何をする?

世の中の全ての人が「自分の時間」を掘り出しているとは思えない。実際、去年の自分はそんなこと考えもしなかった。自分の時間を掘り出しても、それを使いこなせない人。自分は今ここにいる。和子は使いこなしているのかな。でも、自分の1000時間を宿題に使うのも、なんだかもったいない気がする。

 

◇ ◇ ◇

 

「ねえ父さん、もしね、もしもだよ、自分の自由な時間が1000時間あったら、何に使う?」

「まてまてまて、どうした武志。何があったんだ。おーい母さん、武志が変だぞう。哲学者になちまったぞう。」

「茶化さないでよ。真面目に聞いてるんだから。」

「ビール飲んじまった酔っぱらいに真面目な質問か?でも、武志がそういうなら応えてやろう。でも、ちょっと考えるから、時間とビールをくれ。いや、1000時間はかからない。ビールも1本で十分だ。」

「質問するタイミングじゃなかったみたい。宿題してくる。」

 

「宿題してくる。」自分の部屋に一時避難するのに、これ以上強力な言葉はない。もちろん宿題はしない。そもそも今日は宿題がない。部屋汚いな。掃除でも・・・そんな気分とも違うな。意味もなくメールチェック。

暇だ。

いや、今この瞬間も自分の時間。がんばって朝掘り出さなくても、今ここにあるじゃん。たっぷり2時間、1年で365×2は、、、730時間。3年で2000時間以上あるじゃん。朝の1000時間と合わせて3000時間。すごいな。これをきちんと使いこなす人ってどんな人なんだろう。総理大臣とか、ノーベル賞科学者とか、プロスポーツ選手とかになってるのかな。和子もそのグループか。今頃あいつ、10ページの半分を仕上げて、難しい本読んでる気がする。和子がテレビを見て時間をつぶすイメージが沸かない。どう考えても和子には勝てそうにない。すごい人って、身近にいるんだな。

まてまて、和子はひとまず置いといて、自分の時間だ。何すればいいんだろう。「これからゆっくり考えていけばいいのよ。」考えることで1000時間使っちゃったりして。

勉強かな。読書?嫌いじゃないし。なんか楽器やってみる?ギター、あこがれなんだよな。やっぱり運動?毎日トレーニング?なんか辛そう。

うーん、思いつかない。いくら時間を作っても、それを使う目的がないと苦しいな。朋子さんは「まず大きな画用紙を広げて、それから書く。」って言ったけど、やっぱり「書きたいものがあるから、それに見合う画用紙を広げる。」の方がしっくりくる。今度朋子さんに聞いてみよう。

 

「おお武志、待ってたぞ。1000時間の使い方、考えた。」

はやっ!自分はこの10日間、考えても考えても答えが出なかったのに、このおやじ、ほんとにビール一本飲んで考えたのかよ。

「まず質問だ。この1000時間は、分割でも、まとめ取りでも良いのか。」

「まあ、なんでもいいよ。」

「その1000時間は、母さんも、武志も、美紀もみんな持ってるってことでいいのか。」

「なんだよそれ。でも、まあそれでいいよ。」

「よし、父さんの答えだ。みんなが持ってる1000時間を父さんにくれ。そんでもって、40日間のバカンスに出よう。最初は南の島と思ったけど、さすがに40日では飽きちゃうから、いろんな所を旅して回ろう。おい、母さんはどこ行きたい?」

「パリ!」

「うーん、ベタだけど採用しよう。美紀は?」

「ディズニーランドとUSJを2日ずつ!」

「よしわかった。但し父さんは絶叫系だめだから、途中別行動な。武志はどこ行きたい?」

「うーん、オーストラリアかな。」

「おーっ、オーストラリアは広いぞ。何見たい。」

「英語の教科書に写真が載ってた、あのでかい岩。」

「エアーズロック!あれ父さんも見たいと思ってたんだ。採用!」

調子にのった父さんは、広告の裏にスケジュールを書き始めた。きっかけを作ったのは僕だけど、もう付き合ってらんない。

 

◇ ◇ ◇

 4月19日

「武志おはよう。」

「おはよう和子。ちょっと聞きたいんだけど、もし自由な1000時間あったら何に使う?」

「へええええええええっ! やっぱり武志じゃないみたい。早起きのトレーニングにもぶっ飛んだけど、今度は1000時間!それって分割?まとめて?」「いや、どっちでも。」なんで父ちゃんと同じ質問をする。

「1000時間あったらぜったい英語の勉強する。将来、外国の人と英語でやりとりする仕事に就きたいのよね。これ入試の面接でも言ったことなんだけど、だんだん本気になっちゃって。武志は?」

「考え中。」

「考えまとまったら今度教えてね。おっと、私の勉強部屋とおちゃあく。じゃあね。」

 

10日考えてもわからない自分。すぐに答えが出てくる和子。やっぱり和子にはかなわない。

 

続きを読む

スポンサードリンク

小説「高1の春に」

自己紹介

縁あってたくさんの中学生と接してきましたが、まだ人生の準備運動の段階であきらめている子のなんと多いこと!そうじゃないよ。人生は中学卒業からが本当のスタートだよ。いくらでも自分自身と自分の人生を変えられるよ!
そんな思いをもってページを立ち上げた中年のおじさんです。

PAGETOP
Copyright © 2018 がんばれ高校生 All Rights Reserved.
Powered by WordPress & BizVektor Theme by Vektor,Inc. technology.