未来をより良く生きるために

15 7月 行動②

7月12日

5時50分、いつもより10分早く目覚ましが鳴る。枕元にはクロッキーブックと鉛筆。鉛筆はステッドラー社の製図用。1本200円だ。普通の鉛筆で何の不都合もないけど、ここは気分の問題。昨日、硬さFを1本だけ買ってきた。デッサン用ならもっと柔らかい方がいいみたいだけど、Fっていう硬さがあることを初めて知って、なんだかうれしくなってこれに決めた。

腕時計のストップウォッチをスタートさせる。今日は携帯電話を描く。四角いフォルムはどう描いたって間違いない。あっという間に形ができた。うん、たった2分。残りの時間は陰影をつけていく。こっち側が陰になってるから、サクサクと塗りつぶす。影もつけちゃえ。でも、なんか形が変みたい。紙の中の携帯は、本物より若干太って見える。それから液晶画面、このキラキラ反射する雰囲気なんて、どう描いていいか見当もつかないや。時計はすでに8分。これ以上は無理。

 

記念すべき第一回作品は、悲惨な結果に終わった。

 

なぜ、僕がデッサンのまねごとを始めたのか。それには理由がある。(深くはない。)

とりあえずの目標を「将来はものづくりの仕事をする」と決めた僕は、毎日続けることを考えた。毎日ものを作るのはいくらなんでも大変すぎる。そんな悩みを朋子さんに話したら、すぐにメールが来た。

 武志くん、こんにちは。

この間は楽しかった。和子さんてすごく魅力的な子だね。付き合っちゃえばいいのにと本気で思っちゃった。相談ができる大人がそばにいることも素敵なことだし、非力ながら私がその存在になれたらと思ってる。一方で、夢や悩みを共有して一緒に頑張れる同級生も大切ね。また彼女を連れてきてね。

 

さあ、ここからが本題です。

 

デッサンしてみませんか。

 

何だか私の得意分野に誘い込むみたいで恐縮しちゃうけど、もしかしたら武志くんの習慣づけになるかもって思いました。ものを作る仕事は、ものを作る前に設計図を描きますね。設計図というほど精確でなくても、完成予想図なんかをすごいクオリティで描く人がたくさんいます。工業系のデッサンはいずれ勉強するだろうし、毎日少しずつ描いていくと、力もつくし、「自分はこの目標に向かって努力してる。」っていうモチベーションの維持にもなりそう。美術と工業で違う部分もあるけど、私も少しならアドバイスできるかも。

 

ここでね、西野先生から聞いた話を紹介するね。その人は西野先生が高校生だった時の地学の先生の話。その先生は、けっこうな歳になってから絵を描きたいと思ったの。それで、県を代表する日本画家のところに「絵を教えて下さい。」と頼みにいったんだって。話を聞いた画家の先生は宿題を出します。

「毎日50枚のクロッキーをしなさい。」

その先生は、宿題をしっかり守って、毎日50枚のクロッキーを続けた。50枚だから、題材なんて選んでる暇はない。お昼になったら弁当箱を描き、ふたを開けたらおかずを描き、食べ終わったら空の弁当箱を描き、そしてお茶をのんだら湯飲み茶わんを描くという勢いだったとか。

最後にどうなったと思う?

その先生、最後は県を代表する日本画家に自分がなっちゃって、一枚の絵に何十万の値がついたり、コンサートホールの緞帳(どんちょう)に絵のデザインが使われたりしたというお話。

 

私は、中学時代に西野先生からこの話を聞いたの。その後、私も細々とながらも絵を続けてるのは、このお話も影響してるみたい。

 

「デッサンしてみない?」は、半分私の願望もあるので、取り入れなくても何も言いません。でも、もしやってみようと思ったら、毎日1枚でいいから1か月続けてみて。同じ30枚でも、一日に全部描いたのとは効果がぜんぜん違うから。

 

「取り入れなくても何も言いません。」て、もう十分な圧力感じるんだけど・・・。でも、他にアイディアもないし、1か月は続けるしかないですね。朋子さんは「続ける」ってことにこだわるからな。

クロッキーは10分で切り上げることにする。そして、いよいよ早起きの時間を使うことにする。毎日1枚描き続け、8月12日になったら、自分にごほうびをあげよう。

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小説「高1の春に」

自己紹介

縁あってたくさんの中学生と接してきましたが、まだ人生の準備運動の段階であきらめている子のなんと多いこと!そうじゃないよ。人生は中学卒業からが本当のスタートだよ。いくらでも自分自身と自分の人生を変えられるよ!
そんな思いをもってページを立ち上げた中年のおじさんです。

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