未来をより良く生きるために

2 4月 早起きに挑戦する①

4月4日 

 朝6時、アラームが鳴る。

 買ってもらったばかりのiPhoneをつかみ、音を止める。続けて部屋の時計が鳴り始める。早起きの初日だ。

着替えをして、歯を磨き、6時10分準備完了。

「母さんおはよう。」

「おはよう武志。ちゃんと自分で起きたのね。ごはんできてるよ。」

「ありがとう。いただきます。」

「で、通学の練習はどこまでやる予定。」

「駅まで自転車で行ってくる。」

「頑張るねー。なんだか武志じゃないみたい。」

 

 駅までは自転車で10分足らず。ゆとりで6時53分の列車に間に合った。定期でホームに入る。学校が始まったら毎日この列車に乗るんだ。「よろしくお願いします。」と心の中でつぶやいてみる。そして、乗り込む。駅まで行ったら帰るつもりだったけど、なんとなくこうなる予感もしていた。予定外のような予定通りのような、まあいいか。学校始まったら、こんな自由に動けないもんね。

 

 春休みの平日だから学生はほとんどいない。部活に行くジャージ姿の高校生が数人。それと会社員。車がないと生きていけないようなこんな田舎でも、列車通勤の人がいるんだ。

ぶどう畑、青龍湖、何度か車で通った道も、列車だと違うところみたい。こんな気持ちもすぐになくなって、当たり前の毎日になっていくのだろう。でも今は旅人の気分。ハイテンションの自分がちょっと可笑しい。遠足じゃないし・・。

このまま終点まで乗っていきたい衝動を何とか抑えて、25分の旅に終止符を打つ。

 ◇ ◇ ◇

 「あれえ、武志くんどうしたの。まだ学校休みでしょ。」

「朋子さん、おはようございます。通学の練習でここまで来てから、帰りの列車がないことに気づいてぶらぶらしてました。かなりのアホですね。」

「やる気あっていいじゃない。お入りなさい。」

「開店前なのにすみません。」

 

「それで、今日から早起きしてみたってところかしら。」業務用のミルをガーっと鳴らしながら朋子さんが尋ねる。

「はい、朋子さんのメール読んで、いろいろ考えてしまいましたよ。『早起きしましょう。』のひと言だけで、いったい何時に起きればいいのか、起きて何すればいいのかもわからないし、とりあえず母には『通学の練習』とだけ言って出てきたんです。」

「武志くん偉いと思うよ。昨日のメールを見て、今朝にはもう行動してるんだから。」

「でも、早起きってそんなに大切ですか。」

「まだ1時間くらいあるから、早起きについて考えてみようか。その前にコーヒーをどうぞ。今日の豆はコロンビア。芳醇な甘さが特徴のバランスの良い豆ってことになってるけど、私はほのかな酸味が特徴だと思ってる。飲んでみて。まだ開店前だからこれはサービスね。」

「ありがとうございます。でも、コーヒーの味ってよくわかんないな。」

「いろんなコーヒー飲ませてあげるから、少しずつ覚えていってね。実は私も最初は『コーヒーなんて皆同じじゃない。〇〇がいいなんて通ぶってる人だって、実はかっこつけてるだけで何もわかってないんじゃない。』って思ってた。でも、勉強するとそれまで気づかなかった違いが見えてくるものなのね。今は、何もわからなかった昔の自分が信じられないくらいよ。」

コーヒーをちょっと口に含んでみる。ほのかな酸味というやつは、やっぱりよくわからない。

「おっと、コーヒーじゃなくて早起きの話だったね。この話のほとんどは西野先生の受け売りだけど。」

そう前置きすると、朋子さんは猛烈に喋りはじめた。

 

 

 「西野先生ね、こんなことおっしゃってたの。「一日にちょっとだけでいいから、誰にも何にも邪魔されない自分だけの時間を持ちなさい。」って。その時の話はね、単純だけどなかなか深いなあって思った。

 自分がうまくいってるって感じるのはどんな時だろう。それはつぎの三つがうまく回転している時じゃないかしら。

①やりたいことがある。

②それをやるための環境がある。

③実際にそれができている。

 やりたいことって、次から次へと出てくるでしょ。私なんか、100でも200でもすぐに出てくるわよ。あれっ、武志くんは違うの。でも、10や20は思い浮かぶよね。でも、やりたいことがあるのにそれができないのは何故かしら。できないと感じている人の大部分が「そんな時間はない。」ということなの。もっとも、本当に時間がないのではなくて、「時間がない。」という言い訳で、やろうとしない人がほとんどだけどね。

 「そんな時間はない。」という言い訳で人生が終わってしまったら、悲しすぎるよ。そこで、ちょっとだけ頑張って「自分だけの時間」を作るわけ。じゃあ、「自分だけの時間」をいつ作ればいいのかというと、どうやら夜中ではだめらしいのよ。」

「そこはちょっと、納得できませんというか、夜中じゃだめな理由がわかりません。」

「もちろん、朝と夜中に同じように行動できればそうかもしれないけど、『朝の1時間は夜の2時間に匹敵する。』なんて言葉を残した人もいるくらい、朝は効率がいいみたいね。『早起きは三文の徳』なんて言葉だけでなく、早起きをしている人は人生を豊かにしているという話はそれこそ数知れずね。一度本屋さんに行って「時間管理」や「早起き」の本を探してごらん。信じられないほどたくさんの本が並んでるよ。それだけ世の中の人は早起きの大切さを理解していて、そして実行できないでいるということなのね。」

「朋子さんは、早起きして何か得したことってありました。」

「そおねえ、先生の話を聞いて中3から始めて、もう習慣になっちゃってあまり得したって感覚はないわね。でも、朝の1時間はかなり大切よ。5時半に起きて、水を飲んでストレッチ、それから1時間は創作や読書の時間に充ててるの。外の雑音やテレビ、電話にも邪魔されないで、無心に取り組めるのが朝ね。」

「創作って。」

「それは又今度ね。」

「でも朝が良いとして、僕の場合早起きしてもやることがないんですけど。」

「最初はそれでいいんじゃない。『最初に大きな画用紙を広げる。それから描く。順番を逆にはできません。早起きは画用紙を広げること。何を描くかは、それから考えよう。』と言われたわ。私も最初はそうだった。まあ、とりあえず続けてみて。そしたら見えてくる景色が変わってくるかも。」

 

◇ ◇ ◇

 

「ただいま。」

「お帰り、登校練習にしてはずいぶん遅かったわね。」

「勢いで松山駅まで行ったら帰りの列車がなくて、駅前通りで時間つぶしてきた。」

「なんだか行動がおじいちゃんに似てきたみたい。」

「隔世遺伝てやつ?」

「それは大変!」

大変てなんだよ。とつぶやき2階に駆け上がる。

 

早起きかぁ。今日は初日だから気合入ったけど、明日から続けられるかな。でも、何もしないよりもいい方向に進む予感もあるし。まあ、がんばってみるか。

 

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小説「高1の春に」

自己紹介

縁あってたくさんの中学生と接してきましたが、まだ人生の準備運動の段階であきらめている子のなんと多いこと!そうじゃないよ。人生は中学卒業からが本当のスタートだよ。いくらでも自分自身と自分の人生を変えられるよ!
そんな思いをもってページを立ち上げた中年のおじさんです。

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