未来をより良く生きるために

17 7月 行動④

7月30日

「いい?よく見ててね。」

そう言うと、やよいさんは丸いコースターを持ち上げた。

「丸い形が、少しずつつぶれてくるよね。」

「はい、横から見るわけだから、そうなりますね。」

「じゃあ、元にもどすね。形はどう変わった。」

 

「だ円だけど、さっきより丸に近くなりました。」

「どう?わかった?」

「・・・」

「それじゃ、これならどお?」

今度は2つのコースターを使って、ひとつだけ持ち上げた。

 

 

 

 

 

 

 

「2つの形、ちょっと違うよね。」

「はい。」

「次は、こうして。」

2つのコースターの端をストローでつなぐ。

「はい、これでコップのでき上がり。今度はどお?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっとわかりました。上と下で、丸みが違うんですね。僕は意識して同じ丸みにしようとしてたんです。それが間違いだったんですね。」

「必ずしも間違いではないよ。特に商品の説明図とか、製図の世界だと武志くんの描きかたが正しいと思う。だから武志くんの絵も、何の違和感もないわけ。でも、『こうなってるはずだ。』っていう先入観が、本来の姿を見えにくくしていることがあるってこと。」

「やよい、あなた今、世間一般が言うところの『ドヤ顔』になってる。」

「てへっ、実は大学の先生から同じ講義受けたの。完全な受け売りでーす。でも武志くん、大学の授業料払ってない高校生の武志くんが、大学で教わる内容を聞いてるんだから、もうけもんよね。」

「あら、私は高校で美術の先生から聞いた気がするけど。」

「そうなんだ。私は大学で初めて聞いて感動したんだけど。」

「おそらく学校の先生って、大切なことは伝えたいって思ってるから、小学校から大学までで同じ事をくり返し教わってる可能性は高いよね。でも、いくら先生が伝えようとしても、スルーしちゃって忘れてることもたくさんあるだろうね。」

「うん、それはわかる。先生が突然情熱的に話し始めて『どうだすごいだろう感動的だろう。』って言ってるけど、聞いてる方は『何か今日、頑張ってるなー。』くらいにしか思ってないし。きちんと聞けば感動的なのかもしれないね。その点に限り、先生ごめんなさい。」

「でも、やよい今回いい話したわね。『先入観が本来の姿を見えにくくしている。』ってところ。これは、絵を描くだけの心構えじゃなくて、人生における真理かもね。特に人を見る時に気をつけなければならないことだね。」

「でも武志くんすごいね。どんどん上手くなってる。」

「ありがとうございます。でも、描き始めた初心者だからってこともありますよね。」

「確かにね。ある程度描けるようになると、その先の伸びって苦しいよね。」

「それでも武志くんは頑張ってると思う。」

「とにかく続けてみようと思います。最初は10分間を持て余してたんですけど。最近は10分じゃどうしようもないなって、なんか、1時間くらい時間かけてきちんと仕上げたいなとも感じてます。」

「それわかる。でもね武志くん、ひとつ恐ろしい忠告を・・・時間かけても、ちっとも良くならないで、逆に絵をこわしてしまうことの方が多いよおー。」

「やめなさいって! まあ、やよいの言う事も一理あるけど、そんなもやもやした努力の先に、新しい世界が見えるのかもね。」

「今は10分の中で続けようと思ってます。1か月はこのまま続けてみて、それから考えます。」

「それがいいわね。まずは決めたことを続ける。これがすべての基本だから。」

 

「ところで武志くん、夏休みは何をする予定?」

「もう1週間経ちましたけど、毎日部の練習があるし、宿題も学校でやってるから、あまり変わらない毎日ですね。うちはすごい進学校じゃないんですけど、それでも大学目指してる3年の先輩なんか、学校のあちこちで勉強してますよ。それ見たら、『ああ、同じように学校で宿題やればいいんだ。』って思ってマネしてます。」

「昔は学校の方が家より涼しかったから、夏でも勉強に来る人たくさんいたわよ。そうそう、昔はなぜか近所の銀行がクーラーの効いた研修室を開放してて、時々社員の方が勉強見てくれるなんてこともあった。でも、ほとんどの家にクーラーのある今でも同じなのね。ちょっとホッとする。」

「すぐ質問できるってのもいいみたいですね。僕は宿題進めるだけですけど。」

「夏休みはずーっと部活?」

「お盆前後に1週間休みです。その期間だけは学校も閉めるから受験生も来れないんです。もちろん部活もありません。」

「貴重な1週間ね。そこは家でのんびりかな。」

「実はちょっとした計画がありまして・・・でも、今は秘密です。」

「なになになに、ちょっと、もったいぶらないで教えてよ!」

「へへへ、秘密ですっ!」

「それってすごいこと?」

「うーん、僕にとっては結構すごい事だけど、ひょっとして実現しなかったら恥ずかしいから、今は秘密です。」

「私は、『言ってしまってひっこみがつかなくなって、それで頑張っちゃうタイプ』だけどね。武志くんも今からタイプ変えたら?」

「実行したら、途中経過をメールしますね。」

「いじわる!でも、意思は固いようだし、メールを期待して待つしかなさそうね。」

「やよいさんの『ひっこみがつかなくなって』てやつ、いいですね。次はそれ使ってみます。でも、今回は別のプレッシャーを自分にかけてるんです。」

「どんな風に?」

「今、毎朝デッサンしてるけど、1か月続けるために考えたんです。『1か月きちんと続けたら、これをやってもいい』って。今計画してることも、8月12日までデッサンを続けないと実行できないんです。」

「ご褒美作戦ね。確かにそれも効果的だ。もっとも私なら、ご褒美作戦と引っ込みつかなくなる作戦の両方とも使うけどね。」

「それじゃ、武志くんから『秘密の計画』のお知らせが来たら、それは1か月間デッサンを続けた報告でもあるってことね。うん、素敵!」

「私は毎日デッサンの画像見てるから、ちゃんと続けてるのわかってるけどね。でもわかった。作戦成功を祈ってる。」

「頑張ります!」

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小説「高1の春に」

自己紹介

縁あってたくさんの中学生と接してきましたが、まだ人生の準備運動の段階であきらめている子のなんと多いこと!そうじゃないよ。人生は中学卒業からが本当のスタートだよ。いくらでも自分自身と自分の人生を変えられるよ!
そんな思いをもってページを立ち上げた中年のおじさんです。

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