未来をより良く生きるために

32 11月 違う角度から考える①

11月1日 

武志くん こんにちは。

足立祐介です。

 

10月のテーマ「自分を大切にする」は、うまく習慣づけできましたか?

朋子から「スタートは整理整頓」と聞いて、僕の出る幕はなさそうだったので、大人しくしてました。(笑)

はい、そうです。片付けは苦手です。

 

さて、11月のテーマは

「違う角度から考える」です。

 

武志くんの心の声が聞こえてきます。

「なぜ、足立さんからテーマの連絡が来たのだろう。朋子さんは知ってるのだろうか。」

はい、大丈夫。朋子と相談して、テーマを決めました。

「違う角度って何だ?」

それを学んでいくのが今月のテーマです。

 

僕たちの考えは、自分の頭でしっかり考えているつもりでも、必ず何かの影響を受けています。

多少なりとも偏った考えを持っています。

また、一度持ってしまった先入観や固定観念というやつもクセ者で、

間違った考えを直せない時もあります。

というより、直せない場合がほとんどでしょう。

もっといい方法があるかもしれないのに、、、

 

「自分はこう思う。こう感じている。」

という気持ちを一旦リセットして、

「ほんとにこれでいいのかな。違う考えはないのかな。」

と考えるクセをつけていきましょう。

ということです。

 

このあたりの感覚は、たぶん西野先生の得意分野でした。

「ミリ単位で整列する時間もったいない。とにかく座れ。顔見えて話聞ければそれでよし。」

とか、

「もしかして、全員立って勉強したら勉強進むんじゃね?」

とか、

「なぜ買い食いはダメなんだ?お金出して買ってるぞ。万引きなんかしてないし。」

なんてのもありました。

(今思えば、先生は職員室で他の先生とうまくやってたのか心配になります。)

 

では、宿題です。

写真を見てください。

 

この写真の子について、できるだけ詳しく説明してください。

写真だけじゃわからない?

そのとおり。これは、勝手に想像するトレーニングなのです。

西野先生の授業で、一度だけみんなで行ったものです。(道徳、だったかな。)

 

できるだけ詳しく、ですよ。

僕のレポートは、すでに朋子に渡してます。

武志くんのができたら、それを見てください。

「違う角度から考える」かあ・・・

それが大切なのはよくわかるけど、いったい何をどうすればいいのか、難しい課題だなあ。

それにしても、この宿題・・・

黒人だよね。アフリカ?それともアメリカ?

10歳くらいかな。詳しい説明・・・勝手に想像・・・

 

足立さん

武志です。メールありがとうございます。

献血の時はありがとうございました。それから、ごちそうさまでした。

 

「違う角度から考える」

これ、すごく大切だと思います。視点をかえてみるってことですよね。

高校の担任の先生からも、時々言われます。

でも、この宿題は難しいですね。勝手に想像してと言われても、なかなか想像できません。

 

とりあえず

アフリカの女の子、10歳。お父さんとお母さんと、お兄さんの4人家族。

水汲みがこの子の仕事になっている。

時々家族の手伝いで学校を休む時もある。

友達と遊んだり、絵を書くのが好き。

好きな食べ物は・・・羊の肉

こんなのでいいんでしょうか。

 

少しして、足立さんから返事が来た。

足立祐介です。

ねっ、けっこう難しいでしょ?

正直いうと、まだまだですね。「羊の肉」には笑ったけど。

僕のレポートを楽しみにしてくださいね。

これだけ?

まあいいや。あとは深く考えない。それに、今日はめずらしく本当の宿題もある。早めにやっちまう。

 

11月2日 昼

「研一、ちょっとこの写真見て。」

「黒人の女の子?」

「うん。」

「有名人?武志の知り合い?」

「どっちでもない。ある人から『この子について勝手に想像して詳しく説明する。」っていう宿題だされてる。」

「武志って、おもしろいね。それ、なんか意味あんの?」

「たぶん意味があるんだと思う。でも、何書いていいか全然わかんない。研一なら何て説明する?」

「テキトーでいいんだろ?そんなら簡単じゃね?」

「たとえば?」

「そうだな・・・

名前はワンビー。現地の言葉でおひさまっていう意味だ。おひさまが真上に来た時に生まれたからワンビーって名前がついた。あひさまみたいに明るい人になってほしいという親の願いもある。生まれたのはこの村の村長の家。とりあえず不自由なく暮らしていたけど、ワンビーが7歳の時にイギリス人がやってきて、村長の家でしばらく暮らすことになった。ワンビーはスワヒリ語しか話せなかったけど、そのイギリス人、名前はジョンで生物学者、彼と一緒に行動してるうちに英語が話せるようになった。ジョンは生物学者としていろいろな動物のことを知ってたけど、ライオンはどれくらいの距離なら危険はないとか、ここで生き抜く知恵はワンビーの方が上だった。二人はお互いを尊敬し合っていた。

ジョンは1年で帰ってしまったが、時々ワンビーに手紙をくれる。そして「大きくなったらイギリスに遊びにおいで。」と書いてある。英語を覚えたワンビーは、学校でも先生のアシスタントとして英語の授業をしている。大きな子に英語を教えるのが、ちょっと自慢だ。でも残念なことにワンビーは算数が苦手だ。この勉強になるとゆううつだ。世の中に算数なんかなくなればいいと密かに思ってる。でも、ワンビーには夢がある。それは、イギリスの大学で生物を勉強することだ。ジョンを見てたら、自分にもできるんじゃないかと思っていた。だから、何とか算数もできるようにならなくちゃと思ってる。

もっと続ける?」

「研一、お前すげー!」

「なんで?テキトーだよ、テキトー。」

「テキトーでも、それくらいすいすい出てくるってすげー。小説家になれんじゃね?」

「で、武志はその宿題、何て答えたの?」

「ちょっとまって、、、これ。」

昨日足立さんに送ったメールを見せると、研一は絶句した。

「これ、ぜんぜん詳しくないじゃん。ていうか、なんのひねりもなくて、つまんねー。」

「くっそーっ!でも自分でもそう思う。昨日いきなり宿題出されて、いったい何をどれくらい説明すればいいのか全然わかんなくて。これじゃだめなんだろうなってことだけはわかるんだけど。」

「だめもなにも、ひどすぎ。宿題のプリントの最初の一問だけ書いて、あとはわかりませんでしたってのと同レベル。」

「けっこうキツいな。」

「キツくない。事実を正確に伝えてるだけ。」

「お前、友達少ないだろ。」

「余計なお世話だ。でも、年寄りの友達は武志よりずっと多い。」

 

「メールくれた足立さんの模範解答があるはずなんだけど、一緒に見に行く?」

「シエロだよね。行ってみようかな。ちょっと見てみたい気もする。」

「木曜日は?その日、自主練だから早めに行ける。」

「じゃあ、図書室で待ってる。」

足立さんの解答も楽しみだけど、自分の中ではもう、この子の名前はワンビーだ。てか、それ以外の名前、考えられない。

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小説「高1の春に」

自己紹介

縁あってたくさんの中学生と接してきましたが、まだ人生の準備運動の段階であきらめている子のなんと多いこと!そうじゃないよ。人生は中学卒業からが本当のスタートだよ。いくらでも自分自身と自分の人生を変えられるよ!
そんな思いをもってページを立ち上げた中年のおじさんです。

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