12月22日
「和子、おはよう。」
「おはよう、武志のところも今日でおしまい?」
「うん、和子の高校も終業式?」
「ええ、ようやく冬休み。だけど、例によって宿題どっさり出てるから、ゆっくりできないかも。大晦日も正月も勉強続ける人間が勝利をつかむんだって。信じられる?まだ1年生よ私たち。」
「僕の方はけっこうゆとり。和子の高校行かなくて良かった。」
「女子高に入れるわけないじゃん。」
「受験できたって合格しないしね。」
「ところで、1月は何を勉強するの?」
「それがね、昨日メールが来たんだけど、『手帳を買いましょう。』だって。」
「武志、手帳もってないの?」
「持ってるわけないじゃん。和子は?」
「持ってるわよ。えーと・・・、ほらこれ。」
「黒なんだ。あんまり女の子っぽくないな。」
「うるさい!見せてやんないよ。」
「ごめんごめん。 で、和子はその手帳いつから使ってるの?」
「高校入った時に買ったの。これ、4月はじまりの手帳よ。」
「4月から3月までね。それ、いいね。」
「でも、1月スタートでも翌年の3月までついてる手帳もあったはず。それだと2年生が終わるまで使えるよ。」
「手帳って、けっこう種類あるよね。」
「そうね、1年間使う物だし、あんまり妥協はしたくないな。」
「それで、黒い手帳?」
「いちいちうるさいなあ。中身を見て決めたら、黒と赤しかなかったの。赤よりは黒の方がかっこいいし落ち着くからね。」
たしかに、和子には黒の手帳が似合う。
「和子の手帳、けっこう大きいね。」
「うん、何でも書いちゃうほうだから、小さい手帳じゃだめなの。」
「僕、どんな手帳にしようかな。」
「28日なら、本買いに泉岡書店に行くから、付き合ってもいいよ。」
「あそこ大きいもんね。手帳もたくさんありそう。」
「どうする?」
「お願いしようかな。」
「私、10時くらいに行ってるから、現地集合ね。」
「よろしくお願いします。ハンバーガーごちそうします。」
「よしよし。じゃあ、28日ね。」
12月28日
「手帳ってこんなに種類あるんだ。一気に疲れが出た。」
「何言ってんの。せっかく付き合ってあげてるんだから、頑張りなさい。」
「ほーい。」
「まず、手帳をどう使うかという武志の思いがないと、選ぶのは無理。」
「すみません、手帳なんて使ったことないから、ノープランです。」
「しょーがないなー、それじゃ、私の好みの線でいっちゃうよ。」
「それで結構です。お願いします。」
「まず、私の場合は次の項目ははずせない。
①スケジュール。これは時間単位で書きたいから、時刻入りのやつ。
②スケジュールのわきのメモ欄が大きいこと。しなくちゃならないことや宿題なんかも記録するから。
③そしてノート欄。ここは、1年の目標を書いたりする場所。
これを総合して、一番ぴったりくるのを選んだってわけ。
ところで、朋子さんから何か指示はあったの?」
「うん、ひとつだけあるんだ。『毎朝か、前の晩に、一日の中でやるべきことを書きなさい。そして、それができたかどうかチェックしなさい。』だって。」
「へー、それいいね。私もやろう。」
「で、和子ならどれを選ぶ?」
「スケジュール管理が必要なければ、こういう形のはどう?」
「うん、シンプルでいいかも。もし、スケジュールをしっかり書くとすれば?」
「私が使ってるのは、このタイプ。」
「一日の欄が細いね。」
「だから、大きなものを選んでるの。それに、右側のメモ欄も使えるしね。」
「正直、書く自信ない。こっちの方が続きそう。」
「続けられるって大切よ。このタイプならいろんな種類あるから、大きさやカバーの色、好きなの選ぶといいわ。私は向こうで本見てるから。」
「ありがと。」
◇◇◇
「カバーの色、水色にしたんだ。」
「なんか、青空みたいでさわやかでいいかなって。」
「いいと思うよ。」
「ついでに、ボールペンも買っちゃった。」
「見せて。 へー、ブルーブラックなんだね。」
「黒よりなんかかっこいいと思って。」
「やる気まんまんでいいね。でも、こういう気分て、最初の字が曲がったりすると途端にやる気なくすから、気をつけてね。」
「大丈夫、最初からきれいな字で書けないし。」
「絵、うまいのに、不思議ねえ。」
「直らないんだよね。」
「そう言わずに、頑張った方がいいよ。字が汚いと性格も悪く見えちゃうから。」
「気が滅入ってきた。」
「まあまあ、少しずつね。」
「和子は手帳買って、最初に何書いた?」
「最初は名前書いたけど、その次に書いたのは目標。」
「目標って、1年の?」
「そうよ、高校生になるにあたって、『ここだけは頑張る。』ということと、『こんな人間になる。』っていう誓い、かな。」
「なんて書いたの?」
「そこは秘密。けっこう壮大な夢も書いてるからちょっと恥ずかしい。」
「壮大な夢って、1年間の?」
「将来こうなっていたいっていう願望というか、理想の姿。それがあるから、この1年はここまでやろうって計画するの。」
「なんか、やっぱり和子すごい。」
「もっと誉めて。」
「いっつも誉めてんじゃん。」
「はは、冗談よ。武志も家に帰ったら、将来の姿と今年の目標、書いてみるといいよ。それともここで書く?見ててあげるから。」
「家でやります。」
「ちょっと手帳見せて・・・ほら、このページに書いておくといいよ。」
「1年続くかな。」
「高いお金出したんだから、頑張ってね。」