12月2日
「それじゃあ、いただきまーす。」
「すき焼き、久しぶりだね。」
「念押すけど、ひとり3枚くらいしか肉ないからね。」
「わかってるって。どれどれ、、、うわー、うまっ!!」
「私の分食べないでよ。」
「肉、少なくてなんか申し訳ない感じ。」
「いやいや、その気持ちがうれしいもんだよ。肉がなくなったらネギと豆腐で腹いっぱいにすればいい。」
「武志にごちそうしてもらうなんて夢みたいだな。もう立派な大人だ。父さんはうれしいぞ。」
「おおげさ。」
「でも武志、せっかくの初給料なんだから、使いたいものあったんじゃない?」
「ちょっと経験したくてバイトさせてもらっただけだし、カフェの朋子さんからも『初月給で両親にプレゼントなんて話、よくあるね。』なんてプレッシャーかけられちゃって。」
「朋子さんにも感謝だな。」
「で、11月はいい勉強になったかい?」
「うん、じいちゃんの家に行った時も、けっこういい勉強になった。研一も『また遊びに行こうかな。』って言ってた。」
「いつでもおいで。よしっ、もう少し囲碁の力もつけておかなくちゃ。」
「すき焼きおごった感想は?」と、母さん。
「うん、それがね、お金って大事なんだなってこと考えた。」
「それ、どういうこと?」
「こっちから頼んだバイトだし、2食付きということもあって4000円のバイト代だったんだけどね。すき焼きの肉を買ったら全部なくなっちゃったわけでしょ。一日働いて、家族プラスじいちゃんの晩御飯にもならないんだなって、けっこうショック受けてる。」
「どや、父さんの実力に気づいたか。」
「うん、素直にすごいなあって思ってる。家族が普通に暮らしていくのに、いったいどれくらいお金がかかるのかな。なんか想像つかない。」
「そうね。もし、三食全部が外食だったら、家族4人で一日1万円にはなるわね。」
「ガス、電気、電話、ネット接続料、車のガソリン、それから、武志の通学定期、武志と美紀の学費、えーっと、、、そうだ、ビール代!」
「ビール代って、ひと月いくらくらいなの?」
「それだけは秘密。下手に公開して事業仕分けされたらたまらん。」
「衣類、これは毎月ではないけどね。それからスマホの料金。これ、3人で2万円近いわよ。」
「美紀のクリスマスプレゼント代も忘れないでね。それからお年玉。」
「美紀は中学生だから、もうサンタは来ません!!」
「父さんがサンタだって知ってるんだから、今年もお願い!」
「いいえ、父さんはサンタではありませんっ!!」
「いったい、お金っていくらあれば生きていけるのかなあ。」
「それは人それぞれでしょ。」
「平均すると、どれくらいなの?」
「どこかの記事で、生涯賃金は2億くらいだって覚えてるけど、これが普通なのかすごいのか、よくわからん。」
「父さんは?」
「そこ、聞くか?」
「武志に言われてみると、お金のことってすごく大切なのに、きちんと話をすることってあまりないね。じいちゃんが教員になった時も、『給料はこれこれです。』なんて説明なかったような気がするよ。いや、忘れてるだけかな?」
「父さんは、今の会社に応募するとき、『初任給はいくらで、他の手当てはこうで。』と、しっかり説明あったよ。」
「うーん、じいちゃんの場合は、『お金の話をするなんて、はしたない。』みたいな感覚あったかもしれないな。」
「なんだか、聞きにくい話になっちゃったね。」
「そうだな。友達同士で、『君の家って年収いくら?うちは8千万だけど。』みたいな会話したら、一気に友達無くすね。武志、ストレートにそんなこと聞くんじゃないぞ。」
「わかってるって。そんなにアホじゃないつもり。」
◇ ◇ ◇
違う角度から考えるって、かなり幅の広い課題だって感じる。
最初は知らない人について考えることからスタートした。
それが、じいちゃんの立場になったり、カフェの店員を経験したり、いろんな立場で考えた。
最後はお金のこと。
父さんが仕事してお金を稼いでくることは知ってたし、それが当たり前だと思ってた。
今でも、必要な分だけお金は出てくるような気がする。
お金持ちじゃないけど、とりあえず不自由しない我が家?
家にいくら貯金あるのかな?
そんなこと考えちゃいけないのかな?
朋子さんに聞くのも失礼だよね。
でも、なんか気になる。
お金って、たくさんあれば幸せだよ。きっと。
でも、お金の事だけ考えて生きてる人って、なんかいやな人に思える。
とりあえず、僕の月収は3000円のお小遣い。
交通費と学費は別に支給される。
学費って、一年間でいくらくらいかな。
ちょっと失礼かもしれないけど、やっぱり朋子さんに聞いてみよう。