未来をより良く生きるために

23 9月 人のために①

9月2日

「おはよう武志、あんた自転車で仙台行ったんだって?壮太から聞いたわよ。」
「うん、かなりしんどかった。」
「いいなあ、そんな話聞くと私も行きたくなっちゃうな。」
「和子なら走って行っちゃうんじゃない?」
「人をばけものみたいに言わないでよ。しかもこんなに美しい女子高生をつかまえて!」
「はいはい、ごめんなさい。」
「ところで、9月は何の修行?」
「『人のために』って感じかな。仙台で津波の被害に遭った海岸見て、ボランティアとか募金とか、いろいろ考えてみようかって話になってる。その勢いで、今月末に献血行くことになった。」
「へー、献血かあ。私も行ってみようかな。」
「おっかなくないの?」
「ぜんぜん。だって、注射みたいなもんでしょ?」
「さすがです。で、和子誕生日は何月?」
「4月生まれだから、もう16歳ですよ。献血できますよ。」
「16歳からって知ってたんだ。」
「もちろんよ。10月の学校祭の時に献血車くるかもって言われてたから。でも、日程が合えば武志と一緒に献血しちゃおうかな。」
「9月24日の土曜日。朋子さんの元同級生の足立さんという人と一緒に行くことになってる。」
「じゃあ、もしもソフト部の練習がなかったら連絡する。」
「オッケー。」
「でも、『人のため』って、いろいろな方法あるよね。募金やボランティアもそうだけど、困ってる友達をフォローするのも、近所のおばさんに明るくあいさつするのも、その中に入るよね。」
「まあ、そうだね。自分の行動で相手が幸せな気分になれば、それは人のために行動したことになるよね。」
「あっ、電車来た。それじゃあ私は宿題して、そして立派な大人になって、人のために仕事をするよ。」

◇ ◇ ◇

「朋子さん、ちょっと 聞いて欲しいんですけど。」
「今日はどうしたの?いつもより深刻な感じだけど。」
「今朝、和子と話していて、困ってる友達をフォローするのも人のためだよねって話になったんです。今のクラスで、5月から時々休むようになった人がいるんだけど、みんなは「さぼりだろ。」「生活が乱れてんじゃね?。」くらいに思ってて、実際それで間違いないとも思うんですよ。来れば普通にあいさつはする。でも、それだけ。それ以上の関係を作らない。ほんとにそれでいいんだろうか。この状態で、あいつ卒業まで頑張れるんだろうか。自分にできることってないだろうか。でも、同じクラスの友達に『自分が助けてあげましょう。』みたいに行動するのって、なんか違うんじゃないか。でも、ほっといていいんだろうか。そんなことをぐるぐると考えてた一日でした。しかもそいつ、今日も休んじゃったから、そもそも何もできないし。」
「親切の押し売りはしたくないし、でも、何もしないのも罪のような気もするし、難しい問題ね。」
「朋子さんならどうします?」
「とりあえず仲良くなるように声かけてみるかな。その上で、お呼びじゃないのならそれ以上深く関わらない。」
「やっぱりそうですか。」

「ちょっと関連するけど、西野先生からこんな話を聞いたことがあった。内容は、だいたいこんな感じ。」

 午前8時前の東京、込み合ってる電車の中で、1人の女性が突然倒れた。慌てて女性を抱えて次の駅で降りた。
 ホームに座って女性を抱きかかえる僕のそばを、通勤客が通り過ぎていく。何人かはこちらに目を向けるが「どうしました?」「何か手伝いますか?」と声をかける人は一人もいなかった。
あまりにも多くの人がそこにいることで、かえって一人一人の動きを妨げていると感じた。どんな状況でも、多くの人がそこにいて、『自分が声をかけなくても大丈夫だろう。』と思えても、それでも自分から行動できる人になりたいものだ。

「このあたりが西野先生の偉いところ。あらっ、恩師に向かって『偉い』は失礼だったね。でも、西野先生なら、どんな場面でもきっと真っ先に動くだろうと信じてる。私もそうなりたいな。
 それからもうひとつ、すいぶん前に何かの雑誌で読んだ話。」

ネパールに学校を建てるという運動をしていた青年へのインタビュー
「日本にも、いろいろな事情で困っている人がたくさんいます。その人たちへの援助でなく、どうしてわざわざネパールまで行って運動してるのですか?」
「確かに日本国内にも困ってる人や苦しんでいる人がいるでしょう。それもわかります。でも、僕はネパールで教育を受けられない子どもたちがいることを知ってしまったんです。気づいた人には、気づいたというだけで責任が伴うのです。僕は、僕が気づいたネパールの学校について責任をもって行動している。それだけです。」

「『気づいた人間には責任がある。』これって、厳しいことだけど大切なことよね。武志くんも、その友達のことに気づいたのだから、責任をもって声をかけるべきかもしれないね。余計なお世話だったら、それはそれでいいじゃない。」
「確かにそうかもしれませんね。次、学校に来たらきちんと声かけてみます。」
「あとでどうなったか教えてね。」
「はい。」

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小説「高1の春に」

自己紹介

縁あってたくさんの中学生と接してきましたが、まだ人生の準備運動の段階であきらめている子のなんと多いこと!そうじゃないよ。人生は中学卒業からが本当のスタートだよ。いくらでも自分自身と自分の人生を変えられるよ!
そんな思いをもってページを立ち上げた中年のおじさんです。

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