8月24日
「武志くん、大冒険したんだって!?」
「足立さん、そんな大げさですよ。2泊3日で仙台に行ってきただけです。」
「でも自転車でしょ。よく頑張ったね。」
「はい、正直言うと予想以上にきつかったです。特に最後の峠越えが。」
「いいなあ、俺もあと15年若ければ一緒に行ったのになあ。」
「うそおっしゃい。裕介、あんた苦しいの苦手だったでしょ。野球部の顧問の先生よく言ってたわよ。『裕介は、センスはあるんだけど根性がないんだよなぁ。ちょっときつい練習するとすぐ休むし。』ってね。」
「うん、思い出した。やっぱり俺には無理か。でも、ほんとによくやったと思うよ。人生の豊かさって、ある意味経験の数だからね。朋子なんかは特にそう思うんじゃない?いろんな経験してるし。」
「私なんか大した経験もないけど、、、でも、裕介の言う通りかもね。たくさんの経験ができた人生って、きっといい人生だよね。」
「そうそう、俺たちも高校生の若造に負けてらんないな。世界一周でもしてやるか。」
「ところで武志くん、海沿いの町はどうだった?何か感じた?そこを詳しく聞きたいから、コーヒーとケーキをサービスするのですからね。
「うーん、なかなかひと言で表すことも難しいのですけど、ひとつ言えるのは、『まだ復興は終わってない。』っていうか、場所によっては『始まってもいない。』と感じました。僕たちは直接大きな被害に遭ってないし、宮城や福島から避難してきた転校生を受け入れてきた立場だから、今まで他人事のように考えていたのかもしれません。もうずいぶん前だし、ほとんど忘れていました。でも、実際に行ってみると、元の生活にもどろうと頑張ってる人が多いんだなって。
あと感じたのは、みんな明るかったということ。大変な被害に遭ってるのに、ほんとに明るく生活してるのが、素直にすごいなって。それは震災から何年も経ったからなのか、たまたま出会った山川さんの性格なのか、それとも暗い気持ちの人は外に出てこないから見えないのか、いろんな人のことを想像したりもしました。」
震災の直後は、結構募金なんかもしたけど、今は何もしてないし、ボランティアは無理でも募金くらいはすべきかな、とも思いました。」
「なるほど、そういえば俺も最近は震災への募金なんかしてなかったな。」
「私は店に募金箱置いてるから定期的に送ってはいるけど、でもちょっと機械的だったかもしれないな。」
「武志くんの貴重な体験を機に、ボランティアや募金について見直すのもいいかもな。」
「そうね、私もいろいろ調べてみる。」
「ところで武志くん、誕生日は何月?」
「6月ですけど。」
「ということは、もう16歳だね。ふっふっふ。」
「足立さん何ですか?」
「武志くん、新しい経験だ!献血行こう!」
「献血、ですか?」
「そう、献血!」
「裕介、献血やったことあるの?」
「えへん、実はこれでも献血の達人というか、献血マニアというか、もう20回はやってる。」
「へえー、知らなかった。あんた意外にいい人なんだね。」
「『意外に』は余計!見ての通りのいい人でしょうが。」
献血は16歳からやれるらしい。でも、足立さんが検索してみたら16歳は200㎖までとのこと。足立さんは「くそっ、400取ってやりたかった。」と悔しそう。僕はほっとひと安心。でも待てよ。200㎖って牛乳ビン一本分?ああ、貧血起こしそう。
「それじゃ、武志くんと日程調整して、一緒に行ってくるわ。朋子も行くか?」
「うーん、昔やろうとしたことあったんだよね。その時、血の重さが足りなくて献血できなかったの。」
「まあ、朋子に強制はしないよ。ここ出入り禁止になるとやばいし。武志くんは大丈夫だよね。」
「大丈夫か大丈夫じゃないのか、未体験なんでよくわかりません。でも、なんだか断れない雰囲気みたいなんで、挑戦してみます。」
「よしよし、いい子だ。人生の豊かさは経験の数だからほれ、献血も人生の豊かさにつながるであろう。」
「どうやら来月のテーマは、「人のために何ができるか。」になりそうね。」