未来をより良く生きるために

51 エピローグ 

2020年3月19日

「朋子さん、こんにちは。」

「いらっしゃい武志くん。引っ越しの準備は進んでる?」

「箱詰めが半分くらいですね。そんなに広いアパートじゃないんで、何を持っていくべきか悩んでます。」

「今度は整理整頓きちんとしないと、すぐにごみの山になっちゃうね。」

「そうですね。はじめからいろいろ持っていかない方が良さそうかな。」

 思えばあっという間の3年間だった。
シエロで朋子さんと話したこと。思いっきり背伸びしてがんばった生徒会活動。たいした成績は残せなかったけど、それなりに充実した陸上部。どれもかけがえのない思い出になった。

「思い出が多い人生は良い人生」って言ったのは誰だっけ。僕の高校生活は、まずまずの経験と、思い出と、それから成果を残して終了した。

終わってしまえば、「がんばって続けて良かったな。」と振りかえれる。
これからの人生も、悩んで、苦労して、そして最後に「良かった。」って言えたらいい。

「未来の設計図、書き換えなしで進んでるね。」

「大学入るまでは・・・ここからが本番って感じです。」

「がんばって、いい建築家になってね。」

「成功したら、シエロを建て替えてあげますよ。」

「楽しみにしてる。」

 

「ところで、和子ちゃんの引っ越しは?」

「もう東京へ行っちゃいました。ぱっぱと決めてさっさと行動して、まるでデジタル時計ですよ。」

「素敵な彼女ね。」

「そうなんですけど、気を抜くとどんどん先にいっちゃってて、毎日がプレッシャーです。」

「武志くんの成長促進剤ってところかな。」

「ドーピングに近い怖さがあります。」

「大事にしなさいよ。あの娘ならぜったい間違いないから。」

「はい。」

 和子も僕も、東京の大学に進学する。僕は第一志望だった日大の建築科。将来の夢に向かっての第一歩。和子は法律を勉強すると言い出して、中央大学に進学する。なんでも法律ではちょっといい大学らしい。
国際法を勉強して、国連職員が第一希望だって。いったいどこの世界に突き進むんだろう。

「いよいよ東京オリンピックの年ね。いいなあ東京。」

「和子は外国の友達を100人作るって、すごい鼻息です。通訳ボランティアの登録もしたそうです。」

「研一くんも希望通り写真の道かあ。オリンピック、楽しみにしてるでしょ?」

「いろいろ作戦があるみたいです。」

 研一は東京の写真学校に進学する。学校に寮があって、そこに住むことになった。
和子も山形県が運営する育英寮に合格。みんな、しっかり節約して生活しようとしている。
僕だけがアパート住まい。だけど、大学は千葉県にあるから家賃はけっこう安い。
無駄遣いしないように、僕も引き締めて勉強する。

◇  ◇  ◇

「ところで、朋子さんにお願いがあるんです。」

「おやおや、あらたまってなあに?」

「おととし僕にしてくれたこと、もう一回お願いできませんか?」

「へえ?武志くんに?」

「いえ、美紀にです。」

「美紀ちゃんて、武志くんの妹の美紀ちゃん?」

「そうなんですよ。」

「私はいいよ。美紀ちゃん好きだし。でも、どうしてそうなっちゃったわけ?」

「じいちゃんの仕業です。この遺言見て下さい。3年前、じいちゃんが美紀にあげたやつです。」

美紀へ
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 ところで、美紀の兄ちゃんは高校3年間で「人生をごきげんに楽しく生きる方法」を学ぶことになる。どんな素晴らしい智恵が身につくのか楽しみじゃろ?
 美紀が高校1年になったら、兄ちゃんに「楽しく生きる方法ってのを私にも教えてくれない?」と頼んでみるのじゃ。きっと素晴らしい未来の扉が開かれるじゃろう。

「あははは。西野先生、芸が細かいね。」

「今にして思うと、美紀が時々こっちをじーっと見て、『がんばってよね兄ちゃん。』なんて唐突に言うことがあったんですよ。その原因がこの遺言でした。」

「よーくわかった。でも、ここは私じゃなくてやよいに頑張ってもらおうかな。」

「やよいさん、いいですね。」

「やよいには私から話しておく。きっと喜んじゃうよ。よっしゃーって叫ぶのが目に浮かぶ。」

3月26日

東京までは新幹線でたった3時間。そう、たった3時間なんだ。
だけど時間じゃない。400キロ離れた都会に移り住むん。400キロだぜ。すっごく遠いんだ。
これから4年間、僕は東京で(正確には千葉で)建築を学ぶ。

場所は変わり、学ぶ内容も変わるけど、学ぶ方法は変わらない。

  時間を大切にすること。
  環境を整えること。
  周りの人を思いやって、でも、自分自身を一番大切に扱うこと。
  目標をしっかり持つこと。
  未来計画を時々見直して、バージョンアップすること。
  なにより大切な、続けること。

きっと高校生活より3倍楽しい大学が始まろうとしている。
その先には、もっと楽しい大人の世界が待っている。

車内のアナウンスが上野の到着を告げると、僕は、ちょっとだけ身震いして席から立ち上がった。

 

おしまい  

ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。

みなさんの未来が輝くものでありますように。

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小説「高1の春に」

自己紹介

縁あってたくさんの中学生と接してきましたが、まだ人生の準備運動の段階であきらめている子のなんと多いこと!そうじゃないよ。人生は中学卒業からが本当のスタートだよ。いくらでも自分自身と自分の人生を変えられるよ!
そんな思いをもってページを立ち上げた中年のおじさんです。

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