魔法使いに「あなたにひとつだけ力を授けよう。」と言われたら、そりゃあ間違いなく「魔法が使える力。」と答えるでしょう。そんな実現不可能に見えるものではなく、「この力を持っている人がうらやましい。自分もこの力を身につけたい。」と思うような力とはどんな力でしょうか。「並はずれた筋力」「思いをすらすら伝える会話力」「絵の才能」「動体視力」など、いろいろ思い浮かびます。その中でひとつだけ選べと言われたら、「続ける力」を挙げたいです。
自分自身を振り返ると、「あれもやりたい、これもやりたい。」という情熱だけは欠かしたことがありませんでした。そして、実際かなりのものに手も出しました。しかし、ほとんどのものは続きませんでした。ほとんどが次のようなパターンです。
①やりたいこと、身につけたいことが思い浮かぶ。(英語ができるようなりたいな。海外どこへでも行けるようになるし・・。)
②それを実現するためのアイテムがほしくなる。(○万円の、あの教材さえ買えば、自分は英語ができるようになるはずだ。)
③実際に購入する。(よし、これで夢は実現した。)
④すぐに活用できなくなる。(思ったほどいい教材じゃなかったな。これではだめかもしれない。)
⑤別のアイテムが欲しくなる。(通勤時などのすきま時間を活用すればできるかも。音楽プレーヤーがあればいけるな。)
⑥購入してしまう。(こんどこそ大丈夫だ。さあ、頑張ろう。)
⑦じきに活用できなくなる。(忙しくて、それどころではない。落ち着いてから始めよう。)
何のことはない。自分に足りないものは道具ではなく、続ける力なのです。これがなければ、いくら高価なものを買っても意味はありません。使い続けられないのですから。
さて、前述の通り、みなさんが生活してきた学校の目的は、「社会に飛び出す前に、必要な知識や技能や態度を育てる。」ということです。人生の本番を前に、いろいろな練習を積んでいるのが学校時代と言えます。だから、できるかぎり学校で「続ける力」を身につけていくべきなのです。社会人としての一歩を踏み出した時に、この力が身についていれば、人生の成功は約束されたと言っても過言ではありません。(残念ながら私は身につけられませんでした。)
そんな観点で学校生活を見直してみると、実は行事よりも日々の平凡な毎日に意味があることがわかります。昨日と変わらない今日を、昨日と同じようにやるべきことを続けること。これが最高のトレーニングです。遠足の朝に早起きすることは、誰にでもできる。毎日早起きすることに価値があるのです。
具体的な「続ける力」育成方法は、「続けること」しかありません。「そんなの当たり前じゃ。それができないから苦労してるんじゃ。」という声も聞こえてきそうですね。はじめは小さなことで良いのです。「毎朝起きたら寝巻をたたむ。」「朝晩必ず歯を磨く。」立派な続けるトレーニングです。「毎日10分の縄跳びをする。」「授業の準備を前の晩に完了する。」これもいい。「毎日2時間テレビを見る。」「毎日3時間は必ずゲームをする。」うーん、これはちょっと違うような気がする。なぜなら、ここで身につけた能力を他の行動に応用できるとは思えないからです。続ける力というのは、「楽しくなくても自分にとってプラスになることは粘り強く続ける。何があっても止めない。」という意志の力です。楽しいことばかりでは、意志は身につかないような気がします。
かつて大阪に、荒れた中学校の陸上部を3年で日本一にした伝説の先生がいました。その先生の指導のひとつに「毎日家で茶碗洗いを続ける。」という取り組みがあります。部員のほとんどが一日も欠かすことなくそれを実行するといいます。(一日でも休んだら、今までの努力がすべて無駄になるという強迫観念があるようです。)もちろん茶碗洗いがそのまま陸上のトレーニングになるのではありません。しかし、毎日続け通したという事実は、続ける力を身につけた紛れのない証拠になる。こんな人間なら自分の目標に向かって努力し続けることができる。だから日本一になった。一見意味のなさそうな取り組みが、実は大きな成果を生むのです。
プロ野球のイチロー選手が、「僕の自慢は、高校の3年間、一日も休まず10分間の素振りを続けたことです。」と言ってたとか。わかる人には、その価値がわかるようです。